☆BeMy・・・?☆

もうすぐ二月。
真と雪歩はいつものように並んでスタジオから出て、歩き始めた。
レッスンの帰り道。
もう外は暗く、街灯に照らされて二人の影が伸びる。

「真さん、明日、時間ありますか?」
「明日・・・?。空いてるけど・・・?。」
雪歩は、周りに人が居ないのを、きょろきょろと確認した。
誰も居ない。
けれど、雪歩は真の耳元で小さな声で話しかけた。
「明日、バレンタインのチョコ、買いに行きませんか?」
真は、ちょっと驚いてから、笑った。
「そっか。そういう時期だっけ。いつも貰ってばっかりだから・・・。」
雪歩は、それを聞いてクスッっと小さく笑った。
「でも、チョコ選ぶのって女の子の特権ですよね。一緒に見に行きませんか?」
「・・・女の子・・・。」
真は少し照れたように笑った。
「うん、僕も・・・ホントは結構・・・こういうの選ぶのも好きなんだ。」
雪歩は安心して、ほっとため息をついた。
「よかった。私も・・・いつも行きたいなぁって思うんですけど。一人だと不安だし・・・。」
「僕も・・・一人だとなんか・・・居づらい気がして。誘ってくれてありがとう。」
「じゃ、明日・・・駅で待ち合わせしませんか?」
「うん。そうしよう。」
二人は約束をして、それぞれの家に帰って行った。

***

「いいお天気。・・・ちょっと早かった・・・かな?」
雪歩は青く晴れた空をまぶしそうに見つめた。
冬らしい、遠くまで見渡せそうな澄んだ空だ。

「おっはよ〜!」
ぼんやりと立っていると、駅のほうから大きな声がした。
「おはようございます。真さん。」
雪歩はその元気の良い声に少し照れながら、真の方に歩いていった。
雪歩の手には、バレンタイン・スイーツ特集と書いてある小さな冊子が握られていた。
「えっと、今日行きたいお店とかってありますか?」
雪歩はその冊子と、真の顔を見比べながら小さく首をかしげた。
「う〜ん。あんまり考えてなかったなぁ・・・。」
真は頭の後ろに両手を当てて、空を見上げた。
「あの、じゃあ、私ちょっと気になるお店があるんですけど・・・。」
「そっか、じゃ、そこから行ってみようか。」
「はい。」
雪歩はにっこりと笑って本を閉じた。

「えっと、ココなんですけど・・・。」
「うわっ・・・凄い人だなぁ・・・。」
そこは、少しアンティークな雰囲気の可愛らしいお店だった。
「うわ〜。さすがっていうか・・・可愛いなぁ。このチョコ。ほら。」
真は、ウサギの形をしたチョコを見つけて、雪歩に話しかけた。
「はい。一度本でみたことあったけど。・・・あ、このハート型のも、箱も凝ってて可愛いですよ。ほら。」
雪歩は、繊細な模様が彫ってある小さな木箱に入ったチョコを真に見せて、笑った。
「ほんとだ。って、・・・2500円!?」
真はびっくりした様子で、大きな声を出した。
買い物に夢中になっていたお客さんが、横目で見ている。
真はきまずそうに、頬を軽くかいてから、雪歩に小声で話しかけた。
「・・・雪歩、これって・・・本命用だよね。あげたい人が居るんだ?」
雪歩は、すこし口を尖らせてから、小さな声で言った。
「えっと、あの・・・。内緒です。・・・真さんは居ないんですか?」
「・・・。ぼ・・・僕だっているよ。あげたい相手くらい。」
真はそういうと、ぷいっと横を向いてしまった。
「・・・僕も、これ買おうっと。」
二人は同じチョコを買ってから、しばらく街を歩いてから分かれた。

***

バレンタイン当日。
真と雪歩は事務所に来ていた。
二人とも、昨日買ったチョコレートを見ながらそれぞれため息をついていた。
(・・・あ〜ぁ。なんか見栄張っちゃったかな。)
そう思いながら、真は雪歩の様子をなんとなく見ていた。
雪歩も、ため息をついている。
「雪歩、チョコ・・・渡せない?ため息ついてるし・・・。」
「え、あの・・・。そんなことないです。・・・渡します。」
そう言うと、雪歩はチョコを持ってその場を離れた。

真は、なんとなくもてあましているチョコを持って、少し考えた後、ぱっと明るい表情になった。
「そうだ・・・。あげる相手、ちゃんといるじゃないか。」
そう呟いて、急ぎ足で公園に向かった。

「・・・プロデューサー!」
公園でタバコを吸っていた男性が振り返った。
「おぉ、真。どうした、なんか用か?」
彼は、タバコを消しながら、真の方に振り返った。
「あの、これ、貰ってください!。」
「え・・・。あ・・・ありがとう。って、こんな高そうなのいいのか?」
真は少しだまってから、きまずそうに本当のことを告白した。
「えっと、実は・・・。昨日雪歩と一緒に・・・チョコ見てて。衝動買いしちゃって。」
プロデューサーは、少し苦笑いのような表情を浮かべた。
「あ、でも、プロデューサーにチョコあげたいっていうのは本当ですよ!」
真は、まっすぐにプロデューサーを見つめた。
「ありがとう。わかってるよ。・・・ありがとうな、真。」
プロデューサーは真の頭をなでて、優しく笑った。
「だって、なんか、苦笑いって感じだったし。」
真の言葉を聞いて、彼はきょとんとした表情を浮かべた後、可笑しそうに吹き出した。
「いや、まさか二人から同じようなこと言われるとは・・・っと。」
「え?」
よく見ると、彼のポケットの端から、同じチョコが顔を覗かせている。
「あ・・・。」
「・・・真のこと、内緒にするから・・・。こっちも内緒だぞ。」
プロデューサーはいたずらっぽくウインクをした。
「・・・はい。」
真も、さっぱりとした笑顔を浮かべた。
(なんだ、雪歩も本当は・・・本命とかじゃなかったのか・・・)
大きく背伸びをして、真は事務所に戻っていった。
(・・・二人とも、恋をするのはもう少し先かな。)
公園に一人残されたプロデューサーは二つのチョコを見比べて、一つを口に放り込んだ。
それは、思ったよりも少しほろ苦くて甘い味がした。

☆おわり☆